トイレの歴史を調べてみた
皆さん、こんにちは!
主婦、ヤマダです。
最近、夫のトイレが長いです。(なんの話やねん!)いや、私もまあまあ長いほうではあるのです。トイレで本を読むと落ち着くためついつい長居しちゃうので……。と、自分がトイレ長いんだから夫のことをとやかくは言えないのですが、それにしたって朝、籠城されるのはきつい!
しかもあろうことか、トイレで用を足しながら髭剃りまでしているらしい音がしてくる!
どうなん!と思っていたのですが、怒っていてふと思い出したことがあったのです。
それは、母の実家のトイレのこと。
今は夫婦そろって共働きも珍しくないけれど、当時はお母さんが専業主婦、というのが一般的だった子供時代において、我が家は両親共働きでした。だから夏休みも妹とふたりで家でお留守番がデフォルトだったのですが、私が小学六年生で妹が四年生だった年、さすがに夏休みになんの思い出もないのは、と考えた母によって私と妹は母の実家に一か月、預けられることになったのです。
慣れない場所で一か月、不安もあったけれど、旅はいつだってわくわく。母の実家での暮らしを私も妹も楽しんではいました。
けれど……ひとつだけ、どうしてもどうしても嫌だったものがありました。
それがトイレだったのです。
母の実家のトイレは汲み取り式トイレ、いわゆるぼっとん便所でした。
水洗トイレに慣れ親しんでいた私たちにとって、真っ黒な穴が足元に開いているトイレというのはどうしても慣れないものであり、トイレへ行くには少なからず勇気が必要でした。お恥ずかしい話ながら、慣れるまでは妹と一緒にトイレに行くほどでした。
「落っこちたら引っ張り上げてね」と半ば本気で妹に頼み、妹も「私のこともお願いね」と私に懇願するほどでした。
今思えば、なにを大げさな、と思います。
しかし、あの当時は本気で怖かったし、トイレで長居をしたいなんて微塵も思えませんでした。できるだけ早く用を足し、さっさと立ち去りたくてたまらなかったのです。
なにゆえか。人の家のトイレであることはもちろんあると思います。しかし、水洗トイレか汲み取り式かの違いも大きかったなあと。
そう考えると、トイレ設備の進化により、トイレはただ用を足すだけの場所ではなくなってきたと言えるのかもしれません。
そこでふと思ったのです。トイレというものはどんな歴史をたどって今の形になったのだろう、と。当時の人はトイレに対してどんな思いを抱いていたのだろう、と。
ということで、本日は私たちの生活を支え続けてくれているトイレの過去を巡ってみたいと思います。
1. 世界最古のトイレ 日本最古のトイレ
数十年で様相を変えることもあるトイレ。じゃあ、世界最古のトイレってどんなものだろう?
調べてみると、紀元前2200年頃に世界最古とされるトイレは存在しました。場所はイラク北部、アシュメンナにある古代メソポタミア文明のテル・アスマル遺跡。しかも驚くべくはすでに水洗トイレだったそうなのです。紀元前2200年にすでに?!と驚いたのですが、メソポタミア文明だけではなく、インダス文明のモヘンジョ・ダロにも下水道と繋がったトイレがあったとか。水洗トイレは現代のみのもの、なんて思っていた私はなんと傲慢なことか!
しかし、トイレについて歴史を調べてみると、国ごとにかなり差があって、水洗トイレが取り入れられていたところもあれば、そうでないところも結構あるのです。もっとも驚いたのは、中世ヨーロッパにおけるトイレ事情ですね。ペチコートでふんわりさせたスカートを翻し貴婦人たちが闊歩する。そんな豪奢なイメージばかり持っていたけれど、華やかなベルサイユ宮殿の裏側、トイレに関してはなかなかに過酷だったようなのです。
一応、排泄をするための場所があるにはありました。が、水洗トイレではなく、いわゆるおまるのようなものであり、いっぱいになったら庭など、屋外に捨てるようになっていたとか。しかもおまるの数が限られているので、排泄できなかった人々は庭園の茂みの中でしたともいわれています。
あのベルサイユ宮殿で?! と戦いていたけれど、市街地ではさらに劣悪な環境だったそうで、溜まった排泄物を窓から投げ捨てていたために町には悪臭が蔓延していたらしい……。結果、衛生面の悪化により疫病が流行する原因ともなってしまったと言いますから、トイレがいかに重要なものかを実感させられます。
では、日本ではトイレについてどう考えていたのか。とても気になり調べてみると、最初の手がかりは縄文時代にありました。
福井県にある鳥浜貝塚では、トイレとして決まった設備があったというわけではないにせよ、糞石、いわゆる大便の化石が多く見つかったそうなのです。これは決まった区画にて排泄を行う文化があったということを示しているといわれています。鳥浜貝塚が発見された場所には三方湖があり、化石の発見場所から鑑みるに、鳥浜貝塚を作った縄文人たちは、湖に桟橋を作り、沖のほうへ廃棄したいものを投棄していたらしいこともわかっています。特にその桟橋の杭付近で糞石が多く見つかっていることを考えると、排泄においても、居住区から遠い場所で行っていたらしいことが窺えます。
貝塚とは、食べ終わった貝の殻や、割れてしまった土器を廃棄する場所。排泄もまた捨て去ってしまいたいもの。今はトイレには遠すぎず近すぎずを求めるけれど、当時の日本においては、住む場所と排泄する場所はできるだけ離すことが意識されていたのですね。
奈良時代には、川の上にトイレを作って流れを利用して排泄を行っていた地域があったよう。トイレのことを厠と言いますが、その厠の語源はこの川を利用して排泄を行っていたことからきた、という説もあるようです。
けれど平安時代になるとベルサイユ宮殿のように持ち運びできる容器に排泄を行うようになります。
ここにきて中世ヨーロッパと同じ道を歩くことになるのか! と震えたのですが、平安時代、身分の高い人々が身に着けていた着物といえば、裾が長く引きずるような装束でした。となると、清潔な場所でさっと排泄できたほうがよい、その観点からこの方式が取られるようになったようです。
とはいえ……溜まったものを道端に廃棄するところも同じだったようなのでそれはちょっとどうなのだ、というところですが……。
しかし、平安時代が終わり鎌倉時代になるとトイレ事情はまた変化します。ついに汲み取り式のトイレが生まれたのです! 現存する日本最古の汲み取り式トイレとしては、京都にある東福寺東司。寺で修業していた僧が使っていたとされ、トイレが独立したひとつの建屋として存在しています。内部のイメージとしては小便器が並ぶ男性用公衆トイレのような形で、個室ではありません。複数の穴が地面に開いていて、その穴の中に排泄をするようになっています。
まだまだ現在のトイレとは違うけれど少しずつ近くなってきたようですね!
このような汲み取り式トイレが生まれた背景は、排泄物を肥料として再利用する習慣ができたことが理由だそうです。日本においても疫病が流行った歴史はありますが、排泄物をただの汚いものとして廃棄する対象としてではなく、利用価値のあるものとして捉えることで、溜まった排泄物を衛生的に回収できるような仕組みとして汲み取り式トイレが根付いていった、ということのようですね。
この後、近代化が進み、化学肥料が取り入れられることで排泄物の価値が下がり、適切に回収されなくなった排泄物による河川の汚染が問題となっていきます。が、1904年に日本初の水洗トイレが誕生し、上下水道の整備が進んでいくことで、日本のトイレは現在のような世界で一番と言われるほど、衛生的で快適なトイレへとなっていくのです。
いやあ……正直、この視点から歴史を見たことがなかったので衝撃でした……。
2. 今のトイレ これからのトイレ
歴史を振り返ると、それぞれの時代でトイレに求めたものが見えてきますね。
縄文時代の貝塚では、「離す」ことが求められていたようですし、奈良時代の川屋においては「見えなくなる」ことが、平安時代では「着衣を汚さない」ことが大切にされていたようでした。鎌倉時代には「再利用する」ことが求められ、現代に繋がる水洗トイレにおいては「衛生的であること」が重視されていると思われます。
時代によって排泄に求めるものは変化し、トイレもよりよい形へと進化していく。
だとしたら、今後もトイレは進化を続けていくのでしょうか?
その観点から現代のトイレを振り返ると「衛生的であること」以上のものが、現代のトイレにはあるようです。
それは「快適であること」。
以前、温水洗浄便座についての記事を書かせていただきましたが、温水洗浄便座はまさにその最たるものかもしれません。ただ排泄をする、という視点からであれば、トイレに快適さなど不要なはずです。排泄し、出したものを衛生的に処理できればそれでトイレの役割は終わりと考えていいはず。しかし、現代のトイレは排泄をする、というその動作自体にも重きをおいて作られているように感じられます。
また、日本の歴史において、排泄の形態は「和式トイレ」スタイルなんですよね。それが座って用を足せる洋式スタイルへと変わったことも快適さに繋がる変化といえるかもしれません。座って用を足せるようになることで、トイレの滞在時間は増え、便器だけではない、トイレというその空間そのものに快適さを求めるようになってきたように思うのです。
実際のところ、温水洗浄便座以外にも快適さを感じさせる設備が現代のトイレには数多くあります。
たとえば、公衆トイレに多くみられる水音を流すシステム。使用中の音を消すアイテムとして、なくては困る存在になっています。
ほかにも人感センサーによって点灯、消灯ができるライト。空気清浄機能が一体化した照明。便座カバーの自動開閉機能、非接触型の水洗機能、節水機能がついた便座……。
ぼっとん時代を振り返ると、なんと目覚ましい進化か!
じゃあ、ここがトイレのてっぺんなのか? と思いながら、主人とこんな会話をしました。
私
「トイレってこの後、どうなっていくと思う?」
夫
「はあん? トイレ? そうだなあ、もしも進化するっていうなら、プラネタリウム付きのトイレをデフォルトにしてほしい」
私
「はあ?! いやいや……いらないでしょ……。なんでトイレ入りながら星見たいのよ」
夫
「わかってねえなあ。現代人はとかくストレスと隣り合わせなんだよ。そしてそんなストレス社会においてトイレっていうのはな、唯一、誰にも侵されず自分と向き合える場所なんだ。そんな場所が満点の星空の下にあってみろ。心のデトックスが毎日できて最高だろうが!」
私
「(ストレス、溜まってるんやな……。いつもありがとうな。)」
話を聞いていて一理ある、と思いました。
人とは社会的生き物ですから誰かと繋がって生きていくものだとは思っています。しかしたまに何もかもから離れて自分とだけ向き合いたいときもあります。私の場合は職場でもそうでしたが、家でもたまにひとりで閉じこもりたくなったなあ、と。
そんなとき、ちょっとトイレに立つことって結構あるんですよね。ひとりになりたいときもそうだし、考え事をしたいときにトイレに行ってみたり。
だとするならば、夫の言う通り、ストレスケアができるようなトイレを作っていく流れはあってもいいなあと。
たとえば、トイレでも自由に音楽を聴ける環境を作ってみたり、本棚をトイレに設置したり(これはすでに友人がやっていていつか私も真似したいと思っていました)。
また、夫と話していてこんなことも言っておりました。
「トイレにスマートスピーカー置こうか悩んでるんだよね」と。
なんでやねん!と思ったのですが、トイレでふと「これ、なんだっけ? 調べたいな」と思ったことをトイレが終わって外に出たとたん忘れたことがあったそうで、トイレにスマートスピーカーがあればタイムラグなしに調べものができてよかろう、と思ったからだそう。
調べものはともかく、スマートスピーカーを利用して家電をIOT化することは今や一般的です。トイレにスマートスピーカーを置くことで、トイレにいながらテレビを消したり電気を消したり、家電操作ができるのはメリットかもしれません。現代人は時間もないので、快適なトイレ時間を守るためにスマートスピーカーを利用するというのもありかも……と思って調べていたら、トイレとスマートスピーカーが一体化したものがすでに発表されていました! ただ一般的とは言えないのかな、あまり家電量販店では見かけない……。価格をみると高額なようだし、取り入れるにはハードルが高いなあとは感じたものの、トイレ空間を快適なものにしたいという声が聞こえてきそうな製品だと感じました。
3. 終わりに〜健康を見守るトイレの誕生〜
快適さを極め始めた現代のトイレですが、ここ数年、「スマートトイレ」というものにも注目が集まり始めています。これはAI機能を搭載したトイレであり、便や尿の状態から健康チェックをしてくれるというもの!
健康診断は年に一回だけれど、家のトイレに入るのは毎日。毎日、チェックしていれば病の早期発見もでき、医療機関へ相談するきっかけにもなります。とても安心ですね。
残念なことにこれもまだまだどこのご家庭にでもある一般的な設備とは言えませんが、健康への関心は高い方も多いですし、近い将来、身近なものになってくれたらいいなあと思います。
ある事柄に対して歴史をたどるとその事柄に込めた先人たちの思いが見えて来る気がします。彼らが生きた時代と今では価値観もきっと違うのだろうけれど、それでも共通しているのは「生きていく場所をよりよくしたい」という思いではないでしょうか。よりよくしたい。こうなればもっとよくなる、こうしたらしんどい思いをしている人の負担が軽くなる。私は開発者でもないし、設計士でもないですから、直接的になにかを変えることは難しいかもしれません。しかし、「こうだったら」を考えて声に出すことでなにかの役に立てたらなあと思っています。
今後も関する疑問や希望を形にしていけたらと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします!