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不動産売買時の重要事項説明(IT重説)を解説

更新日2021-04-16 (金) 15:45:03 公開日2021年4月16日

it重説を解説

国土交通省は、不動産の売買取引において、テレビ会議等のITを活用したオンラインによる重要事項説明(以下「IT重説」という。)の本格運用を令和3年3月30日より開始することとしました。

☛ 不動産の売買取引に係る「オンラインによる重要事項説明」(IT重説) の本格運用について

IT重説とは、なに⁉

IT重説は、宅地建物取引業法第35条に基づき宅地建物取引士が行う重要事項説明を、テレビ会議等のITを活用したオンラインにより行う事で、対面による重要事項説明と同様に取り扱うものとされたのです。

パソコンやテレビ、スマートフォン、タブレット等の端末を用いることで自宅などにいながら重要事項説明を受けられることとなります。

今まで重要事項説明は「対面」で行うことが義務付けられていましたが、今回のIT重説本格運用により、テレビ会議など映像や音声について双方向性のある環境(対面と同様に説明を受け、あるいは質問を行える環境が必要)であれば、対面で行う従来の重要事項説明と同様に取り扱われるようになるのです。

賃貸契約については、すでに2017年よりIT重説は本格運用が開始されていて、売買契約についても社会実験を実施してきました。
2020年3月以降のコロナ禍において、非対面での説明ニーズが高まる中、このIT重説 の本格運用が急務となったということです。

ここでは、このオンラインによるIT重説の運用法(手順)、メリット・デメリット、注意点、今後の動向を詳しく説明していきます。

★もくじ★【不動産売買時の重要事項説明(IT重説)を解説】


IT重説開始の背景

実はIT重説は、本格導入される前に社会実験して検証しています。
実験では、賃貸取引について、1,000 件以上のIT重説が実施され、かつ、目立ったトラブルが発生していないこと等から、一定の条件の下であれば、ITを活用して重要事項説明をしても支障がないと認められました。
このため、平成 29 年 10 月より、賃貸取引においては IT 重説の本格運用が開始されました。

売買取引については、個人を含む売買取引を対象としたIT重説については、平成 27 年より法人間売買についての社会実験が開始されました。
その後、令和元年10月から、社会実験の対象は個人も含む売買取引に拡大され、実験期間中に 2,000 件を超える IT 重説が実施されました。
社会実験においては、目立ったトラブルも発生していないこと等から、令和 3 年 1 月に実施された検討会において、本格運用へ移行することが適当とされたのです。

このIT重説の社会実験後のアンケートでは、約7割が「利用したい」と回答し、「利用したくない」はごく少数(2.7%)でした。

特に、新型コロナパンデミックにより命に係わる感染への危機意識が強い現状では、利用者側・宅建業者側の双方で、接触機会を減らすことに対するニーズが一層高まっていて本格運用のニーズは高くなっていました。ました。また2020年9月の菅内閣発足以降、急ピッチで行われているデジタル庁設置の動きもIT重説運用を後押しし、この4月から本格運用となったわけです。

そもそも重要事項説明とは何か?

不動産取引は高額なため、不測の損害やトラブルを防止するために対象物件や取引条件、その他の事項について、売主・買主の双方が十分に確認したうえで契約を締結する必要があります。しかし、多くの消費者は不動産の売買の経験や知識が十分だとはいえません。
一方で一部の売主や仲介をする宅建業者は不動産取引のプロです。

そこで、不動産取引と宅建業者を規定する宅建業法35条では、消費者保護と取引の安全のため、取引にかかわる宅建業者に、契約成立前に買主または借主に対し、対象物件や取引条件のほか書面を交付して説明することを義務付けています。これを重要事項説明といい、その書面を重要事項説明書といいます。

重要事項説明の具体的方法は、説明を要する重要事項を記載しなければならず、また、宅地建物取引士(以下「宅建士」といいます)が、宅地建物取引士証を提示のうえ説明すること、また記名押印して交付しなければならないと義務付けておりされています。

IT重説の運用要件

今回のIT重説本格運用は、この重要事項説明を、説明する宅建業者はインターネットを利用して行うことで、遠隔地に所在する顧客の移動や費用等の負担が軽減が可能となり業務の効率化を図ることができ、説明を受ける不動産購入者は実施の日程調整の幅が広がるなどのメリットが期待されています。

IT重説要件

IT重説の概要

IT重説の手順・流れ

IT重説(オンライン重説)は重要事項説明をパソコンやスマートフォンなどを活用して、オンラインで実施することを意味します。

具体的には以下の手順で行われます。
なお国土交通省は、宅地建物取引業者が適正かつ円滑に売買取引に係るIT重説を実施するために、一定の要件を含めた遵守すべき事項、留意すべき事項、具体的な手順、工夫事例の紹介等マニュアルを作成しています。
詳細につきましては以下URLをご参照下さい。

【ITを活用した重要事項説明実施マニュアル】
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001397149.pdf

まずは環境の確認 お客様と不動産業者側の担当者、双方向でやりとりできるIT環境が有るかどうかを確認する必要が有ります。

①[宅建業者]重要事項説明書の作成

②[宅建業者]重要事項説明書の内容確認、記名押印

③[宅建業者]重要事項説明書を2部相手方(顧客)に送付

④[顧客]重要事項説明書を受領

重要事項説明開始前にお客様の重要事項説明書等の準備と映像および音声の状況について、説明できる状態であるか、IT環境を確認することが重要です。
また同時に不動産業者側の担当者は宅地建物取引士証を提示、お客様の確認を得ることも必要となります。

⑤【重要事項説明を実施】(顧客は送付された重要事項説明書を見ながら説明を受ける)

ここで注意すべき点は、IT環境に不具合があれば中断し改善することです。
実験ではこの中断が一番の支障となっています。

⑥[顧客]重要事項説明書の内容確認、記名押印等

⑦[顧客]重要事項説明書を1部宅建業者に返送



注意点としては、機器の使い方はもちろん、対面でないと説明するスピードが速くなってしまい、お客様が聞き取りにくいと感じてしまうこともあるようです。
また、買主さまに「説明を受けた後、重要事項説明書に署名・押印をして返送する」という作業が発生します。署名押印は対面でもありますし、返送作業だけなら大したことではないのですが、しっかり署名押印できているかがちょっと不安になるところです。

IT重説で予想されるメリット・デメリット

オンライン重説は賃貸借契約で先行して実施され、社会実験も行われていてメリットとデメリットは出尽くしています。メリットは以下のとおりです。

IT重説5つのメリット

① 買主の移動負担を低減できる
② 日程調整がし易い
② リラックスした環境での重説を受けられる
③ 対面・接触による感染リスクがゼロ
④ 対面・接触による感染リスクがゼロ
⑤ 特別な機材は必要ありません。


買主の移動負担を低減できる(宅建業者事務所への来店が不要)

今までは現地に赴き対面で行っていた重説ですが、テレビ電話でできるようになったため、現地までの移動時間や交通費の負担軽減になります。
ケガ等で外出ができない場合や育児や介護などで自宅を開けられないときでもご自宅で重説を受けられます。ゆえに代理人などの対応が必要なく、不測の事態でもご本人様自身で契約が可能です。

通常、重要事項説明は、説明をする宅建業者や金融機関の事務所で行われます。そのため買主は説明が行われる場所までの交通費や移動時間が負担となっていました。特に地方から上京する場合や東京から地方に行く場合などでは、重要事項説明を受けるためだけに移動しなければならないことが消費者の大きな負担となってきました。また、子育て中の人にとっては長時間にわたって拘束されることも高い壁でした。オンライン重説によってその負担を低減することができます。
ゆえに時間コストや費用コストの軽減が可能になります。

日程調整がし易い

土日に集中していた重要事項説明を平日にシフトできる可能性が出てくるので、日程調整がし易くなります。
契約は移動時間などを含めると拘束時間が長くなってしまいます。仕事が忙しい、スケジュール調整できない、長時間家を空けられない、そんな時でもIT重説なら日時を柔軟に選択できるのです。。

リラックスした環境での重説を受けられる

ご自宅等リラックスした環境を買主自身が選ぶことが可能になるので、また事前に届いた資料を見て確認しながら説明を受けれるので、わからない所やもっと説明が欲しい箇所への質問がし易くなり、より深く理解しやすくなります。

it重説1 (1)

対面・接触による感染リスクがゼロ

さらにコロナ禍の現在では、移動や説明場所での対面・接触の機会がなくなるので、ウイルス感染のリスクを減らせます。

特別な機材は必要ありません!

今お持ちのパソコンやスマホ、タブレットなどで利用できるので、新しく特別な機材を買う必要が有りません。
パソコン or スマートフォン or タブレット、Webカメラ、スピーカー(イヤホン)・マイク

IT重説のデメリット

一方で、デメリットはなんでしょうか? 
「ITツール導入の手間」「通信環境の不安定性」「身元確認の不確実性」「説明時間が長くなる可能性」が考えられ、この点は運用を開始するとした国土交通省でも運用マニュアルで注意喚起をしています。

ITツール導入の手間

IT重説の最大の問題点は、パソコンやスマホなどの機器を使用し、インターネットを利用できる通信環境でなければ利用できないという事でしょう。

パソコン操作 (1)

インターネットを利用できる通信環境がない買主さまや宅建業者は利用できないということです。
「令和の今、ネット対応できない宅建業者などいないだろう」と思う方も多いかもしれませんが、実は宅建業者の中には未だにFAXによる物件案内が主流で、メールやラインは使えないなどITとは程遠い環境下で仕事している者もいるのです。

通信環境の不安定性

IT重説でも基本的には宅建業者の義務は従来となんら変わりません。
重要事項説明書は書面で用意する義務、宅建士による説明義務、宅建士証を提示し、買主に確認してもらう義務は従来通り必要で、手抜きや勝手な変更は出来ないのです。

IT重説を実施中は、双方向コミュニケーションがとれる通信環境を維持することが重要になります。

IT重説の説明途中で音声や映像が乱れ、少しでも意志疎通が難しくなった場合には、一旦説明を中断し、通信環境を整えたうえで再開することとなっていますが、なかなか慣れない環境で行われるため、どこまで対応できるかも未知数です。

2020年4月には契約不適合責任も旧来の瑕疵担保責任に変え施行されています。
もし、音声や映像がIT重説を説明しているときに途絶え、その間にとても重要な事項が口頭で説明され、これがこの契約不適合責任に該当する場合、後々大きな問題が起きる事も考えられるのです。

IT重説を行い業者には、通信環境を確認する義務が課せられていて、これが履行できなければ、通常の重要事項説明の違反と同様に罰則が与えられることになりますが、IT重説でも、従来通り重要事項説明書は作成され、その書面に署名押印してしまえば後になって「それは聞いていなかった」は通用しないのです。

不動産は大きな買い物で取引になります。
これまでも不動産取引時に多くの悪徳不動産業者が、悪の所業を余すことなく行っていると言う実態も有ります。
そう、すべての宅建業者が善人とは限らないのです。
IT重説を全ての業者に対し解禁することは、全ての消費者に安心とはならないのです。

例えば、通信が途切れた隙に書面にない事項が口頭で説明されていないとも限らないのです。
ゆえに買主は、ネット通信が途切れた隙につけ込まれないように注意していただいたほうがいいでしょう。
通信が途切れないかに十分注意し、もしも途切れてしまったらその間にどんなことを説明したのかを明らかにしてもらいましょう。

また防衛策として、IT重説のやりとりを録画しておくことも必要かもしれません。
録画してさえ置けば、後になって契約不適合責任問題が発見されても言った言わないなっどで揉めることは無いでしょう。

説明時間が長くなる可能性

重要事項説明を受ける際は、不動産の登記内容・権利内容・法令など付属される書類が多く、またその書類名も専門的な名前の書類が多く存在します。

「●●証明書をご覧ください」と言われても、事前送付された書類には、同じような名前の書類が多く、探す出すのに時間がかかってしまいます。

そのため、軽減できた移動時間以上に説明時間を要してしまうことも。

不動産会社の担当者に、送付書類に番号を付してもらうことや、購入申込をする際に付属書類を使った事前説明をしてもらうことで、当日の資料検索時間を短縮できるようにしましょう。

まとめ

IT重説が運用開始されました。

IT重説の運用開始は宅建業者の店舗運営にも変化をもたらすでしょう。

これから先、DX(Digital Transformation / デジタルトランスフォーメーション)も有り、ますます人々の生活をより良いものへと変革させる動きが出てきています。
そんな中、不動産仲介の現場も変革を迫られています。
ゆえにこれから不動産業にもITはどんどん取り入れられていくでしょう。
現に昨年はVR元年なんて言われて、住宅業界でさっそくVRの使用している会社が出てきています。

不動産業界は、旧態依然としたアナログな慣習や文化が主流となっており、紙、印鑑、対面接客などのアナログな慣習やルールによりデジタル化が進まない状況にあります。
新型コロナパンデミックにより、非対面対応等が強く求められているなか、不動産業界の業務改革は急務となっています。
ゆえに、IT重説の運用開始は、不動産業界においても一層のデジタル化が進むことが予想され、それにサービス対応できない企業は、不動産業者としての役目を淘汰されることになるでしょう。